ついに60歳。定年です。 それは同時に、現役時代からコツコツ積み立ててきた最強の節税制度「iDeCo(イデコ)」のロックが解除される時でもあります。
「よっしゃ!満期だ!パーッと現金で受け取るぞ!」
…と、何も考えずに受取手続きのハンコを押そうとしている同世代の皆さん。 ちょっと待った。 そのままだと、国税庁の良いカモになりますよ。
iDeCoは「入り口(掛金)」では税金を安くしてくれますが、「出口(受取)」ではしっかり課税の網を張って待ち構えています。 今回は、FP資格を持つ私が、自分の退職金と睨めっこしながら導き出した「iDeCoの最適解(出口戦略)」について、リアルな数字を交えてお話しします。

60歳で現れる「3つの出口」
60歳(正確には加入期間10年以上で60歳時点)になると、iDeCoで育てた資産をどう受け取るか、自分で決めなければなりません。 選択肢は主に3つです。
- 一時金(いちじきん): まとめてドカンと一括で受け取る。
- 年金(ねんきん): 5年〜20年かけて、少しずつ分割で受け取る。
- 併用(へいよう): 一部をまとめて、残りを少しずつ受け取る。
「面倒だから一時金でいいよ」という声が聞こえてきそうですが、ここには「退職金との衝突事故」という巨大な罠が潜んでいます。
罠:会社の「退職金」とiDeCoが激突する!
iDeCoを「一時金」で受け取る場合、税制上は「退職所得」という扱いになり、「退職所得控除(たいしょくしょとくこうじょ)」という非常に強力な非課税枠が使えます。
ここまでは良い話です。問題は、会社の「退職金」も同じこの非課税枠を使うということです。
- 勤続38年、会社の退職金が2,000万円出るとします。
- 退職所得控除の枠も、だいたい同じくらい(約2,060万円)だとします。
- つまり、会社の退職金だけで、非課税枠をほぼ使い切ってしまいました。
このタイミングで、さらにiDeCoの一時金(例えば500万円)を受け取るとどうなるか? iDeCoの500万円が、非課税枠からはみ出します。 はみ出した分はガッツリ課税対象となり、数十万円の税金(所得税・住民税)がその場で持って行かれます。
「節税のためにやってきたのに、最後に税金取られるんかい!」 これが、出口戦略をミスした人の末路です。
私の戦略:あえて「受け取らない」選択肢
では、これから年収が下がり「手取り11万」になる私はどうするか? FPとして導き出した結論はこれです。
戦略:「60歳では受け取らず、運用指図者(うんようさしずしゃ)になる」
iDeCoは、60歳ですぐに受け取らなくても良いのです。 75歳になるまでの間、好きなタイミングで受け取りを開始できます(※60歳以降は掛金の積み立ては終了し、今ある資産の運用だけを続ける「運用指図者」になります)。
なぜすぐに受け取らないのか? 理由は2つあります。
理由①:「5年ルール」を使って税金を消すため 会社の退職金と、iDeCoの一時金受取の時期を「一定期間(※会社の退職金が先なら5年以上)」空けることで、退職所得控除の枠がリセットされ、両方とも非課税で受け取れる可能性が高まります。 (※受取順序によって期間のルールが異なりますが、とにかく「時期をずらす」のが鉄則です)
理由②:再雇用中の「貴重な収入源」として温存する 再雇用で給料が激減した今、iDeCoは虎の子の資産です。 今はあえて手を付けず、本当に生活が苦しくなった時や、完全にリタイア(65歳以降)した時に、少しずつ「年金形式」で受け取って生活費の足しにするつもりです。 再雇用中は全体の年収が低いため、「年金形式」で受け取っても税率は低く(あるいはゼロに)抑えられます。
なぜすぐに受け取らないのか? 理由は2つあります。
まとめ:出口こそ、FPの腕の見せ所
iDeCoは「始めたら勝ち」ではありません。「上手に出せたら勝ち」のゲームです。
- 会社の退職金の額
- 勤続年数
- 今後の年収
これらを総合的に判断しないと、最適解は出せません。 「よくわからないから一時金で!」とハンコを押す前に、一度立ち止まって計算してみてください。
(計算が面倒な人は、「会社の退職金とiDeCoの受取は、最低でも5年はずらす」とだけ覚えておけば、大火傷は避けられます)
さて、iDeCoの出口も確保したところで、次回は「定年後の住まい」の話。残った住宅ローン、どうしますか?
